「生き物の語り部」です。シリーズ「奄美大島の大自然」の第2回です。今回は、ヒカゲヘゴの作り出す雄大な森林と、水中から生えてくる不思議な植物の話です。アマミノクロウサギやハブなどの希少生物が暮らす森は、どのようにして形作られてきたのでしょうか。
奄美大島の大自然に魅せられて
奄美大島は、まるで絵画のような美しい自然が広がる南国の楽園です。エメラルドグリーンの海と豊かな緑に囲まれたこの島では、心身ともにリフレッシュすることができます。前回は、奄美大島のみ、あるいは沖縄から奄美にかけてのみを生息地としている固有種の動物たちを特集しました。
特に、野生のアマミノクロウサギを見ることができるツアーは必見でしたね!
シリーズ第2回の今回は、奄美大島の「植物」について特集していきます。
「ほのぼの動物記を読みに来たんだから、植物がテーマなら読まないでおこう」
このように思った方もいらっしゃるかもしれません。しかし、奄美の動物を育む豊かな森には独特な植生が広がっており、アマミノクロウサギやハブなどに興味がある方にとっては、必ず読みごたえのある記事になっています!ぜひ最後までご覧ください。
奄美に広がる多様な植物
今回「生き物の語り部」が訪れたのは、奄美屈指の原生林である「金作原原生林」。これで「きんさくばる」と読みます!
この金作原で大きな存在感を放つのが「ヒカゲヘゴ」というシダ植物(写真↓)。もっとも効率よく太陽に向かって伸びていくので、途中で大きく曲がりながら生えるものもあるそうです。から存在しているといわれています。奄美大島から南でしか見られないシダ植物で、年輪はありません。古い葉が枯れると、根本から落ちていきます。
また「ジャックとマメの木」のモデルとも言われる「モダマ」という植物もいろいろなところに生えていました。 写真を撮ってくるのを忘れてしまいましたが、1mほどの巨大な豆のサヤを見ることができました。近年、モダマを違法で採取する事案が後を絶たないそうです。奄美大島の自然を観光客含めて、みんなで守っていきたいですね。
さらに、「クワズイモ」の葉(写真↑)も見ることができました。この葉っぱ、どこかで見覚えはありませんか?
実は映画『となりのトトロ』のこのシーンでトトロが頭にのせている葉っぱこそ、クワズイモの葉なのです。「ジャックと豆の木」と言い、トトロと言い、有名な作品に関係のある植物の実物を見ることができるのは、なかなか面白いですね!
ヒカゲヘゴが作る奄美の森
さて突然ですが、皆さんは森林がどのように「安定」していくのかご存知でしょうか?
樹木には、陽樹と陰樹の2種類があります。陰樹は日陰に適しており、光が少ない環境でも育ちます。一方の陽樹は、直射日光を好む樹木です。まず「若い森」では、陽樹が太陽の光をたくさん浴びて育ちますが、成木になると光を遮るため、地面に光が届かなくなります。そのため、同じ場所に新しい陽樹が育ちません。その後、陰樹の種子が侵入し、陽樹の下で育ち始めます。陰樹は少ない光でも育つので、成木になると陽樹が減り、陰樹が主役になる高木林ができます。そして、樹木の種類があまり変わらない安定した状態になり、それが「極相(クライマックス)」と呼ばれるものです。
奄美の森は、いわゆる原生林と呼ばれる太古からある森なので、すでに「クライマックス」の状態に入っています。ですから奄美の樹木のほとんどは陰樹です。しかし、先ほど登場した奄美のシンボルともいえる「ヒカゲヘゴ」は、実は陽樹なのです。なぜ「クライマックス」の森に、陽樹であるヒカゲヘゴが生えているのでしょうか?
ここから奄美の森を「人間の皮膚」に例えて説明していきます。小難しい話が続くかもしれませんが、少々お付き合いください。
基本的に、奄美の森は陰樹の高木林なので、それを「皮膚」とします。そして栄養や水分を多く含む地面を「血管」と考えましょう。しかし奄美は天候が悪い日が多く、台風や強風、土砂崩れなどによって、陰樹の老木が倒れてしまうことがあります。そうして陰樹の森にぽっかりと穴が開いてしまうことがあるのです。これを「怪我」だとしましょう。生物学的にはこれを「ギャップ」と呼んでいます。怪我をした箇所には、日光が強く差し込むため、陽樹であるヒカゲヘゴが勢いよく成長します。こうして「ギャップ」はふさがれるのです。そのためヒカゲヘゴは「かさぶた」とみなせます。そして、そのかさぶたの下では「新しい皮膚」である陰樹が再び育つことになります。やがてヒカゲヘゴが寿命を迎えると、怪我は治るのです。
このように考えると、奄美の森が安定した状態を保っているのはヒカゲヘゴが「かさぶた」の機能を果たしているからこそだと言えるかもしれません。
奄美のマングローブ林
最後に紹介するのはマングローブ林です。ここまでは森の中の植物について説明してきましたが、最後に「海辺の植物」についてご紹介します!
奄美大島のマングローブ林は、自然の神秘が息づく貴重な生態系です。マングローブは、海水や汽水域に生育する植物の総称で、塩分に強く、しばしば塩分濃度の高い環境で生育します。マングローブの根は特殊な構造をしており、塩分を吸収することができるのです。また、マングローブの葉には、塩分を排出する仕組みも備わっています。こうして、マングローブは海水中に根を張りながらも、枯れずに成長することができるのです。
マングローブ林は、独特な生態系によって生物多様性の宝庫となっています。カニやヤドカリ、魚類などの水生生物が棲息しているほか、様々な鳥類も営巣しています。また、マングローブは海岸線を守る重要な役割も果たしています。その根は海底に張り巡らされ、海岸侵食を防ぎ、波浪の影響を緩和します。
奄美大島のマングローブ林は、自然の神秘が息づく美しい場所ですが、その価値は環境保護にも密接に関わっています。近年、マングローブ林の減少が懸念されており、生息地の保護や再生が重要な課題となっています。地域の自然保護活動や観光の促進など、様々な取り組みが行われています。
奄美大島に立ち寄った際には、アマミノクロウサギの観察ツアー・金作原のトレッキングツアーとともに、マングローブ林のカヌーツアーも体験してみることをおすすめします!
ちなみに「生き物の語り部」が参加したツアーでは、水中に浮かんでいるアオサを実際に食べてみることができました(笑) 少し塩辛いのですが、体験系のアクティビティならではの経験もできます。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は、奄美大島の自然について「植物」を通じて見てきました。山々の豊かな植生やマングローブ林の生態系は、非常に神秘的で、さすがはユネスコ世界自然遺産に登録されているだけのことはありましたね。ぜひ一度、奄美大島に足を運んでみてはいかがでしょうか?
次回は、シリーズ最終回「ハブvs.マングースの物語」です。ぜひお楽しみに!
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