「生き物の語り部」です。シリーズ「奄美大島の大自然」の第3回です。今回は、島の生態系の頂点に立つハブと、ハブの駆除のために導入されながら外来種として根絶されたマングースをめぐる物語をお届けします。この記事を読みながら「外来種とは何か」「本当に絶滅させねばならなかったのか」「我々にできることは何か」など、ご自身で考えを深めてくださると幸いです。
奄美大島の大自然に魅せられて
奄美大島は、まるで絵画のような美しい自然が広がる南国の楽園です。エメラルドグリーンの海と豊かな緑に囲まれたこの島では、心身ともにリフレッシュすることができます。
この奄美の自然について読者の皆さんに知っていただくために、「ほのぼの動物記」では3回にわたって『奄美の大自然』シリーズを連載してきました。今回の記事を執筆するにあたり、実際に奄美まで足を運びました。
第1回は、奄美大島のみ、あるいは沖縄から奄美にかけてのみを生息地としている固有種の動物たちを特集しました。
そして第2回では、ヒカゲヘゴの作り出す雄大な森林とマングローブ林について、その成り立ちから丁寧に解説しました。
最終回の今回は、奄美の自然について語る時に避けずには通れない「ハブvs.マングース」の物語です。
奄美のハブは恐ろしい?
ハブの特徴と生態
奄美大島には、「ハブ」と呼ばれる毒ヘビが生息しています。ハブは主に夜行性で、森や草むら、石垣の隙間などに生息しています。体長は約2メートル以上に達し、全身は茶色がかった緑色で斑点模様があります。彼らは小動物や鳥類を主な餌とし、鋭い毒牙で獲物を仕留めます。この毒は強力で、人間にとっても非常に危険です。
ハブとよく比較されるのが「ヒメハブ」です。ヒメハブは、ハブに比べてやや小型で、体長は約1メートルほどです。ヒメハブも毒蛇ですが、ハブに比べて毒性は弱いと言われています。外見もハブに似ていますが、ヒメハブの方がやや淡い黄色がかった緑色で、斑点模様も少し異なります。
今回の取材では、道路を移動するハブ(写真右)とヒメハブ(写真左)を発見することができました。
ハブ毒の危険性と被害状況
ハブの毒は、神経毒と出血毒を含み、噛まれると激しい痛みや腫れ、場合によっては命に関わることもあります。奄美大島では、毎年数十件のハブ咬傷事故が報告されており、特に夜間に活動する際には注意が必要です。
ハブ対策と予防方法
奄美大島ではハブの被害を防ぐために、様々な対策が講じられています。
例えば、住宅周辺の草刈りや石垣の整理を行い、ハブの隠れ場所を減らすことが推奨されています。また、ハブが出没しやすい地域には警告標識が設置され、住民や観光客に注意を喚起しています。特に自然の豊かなエリアに立ち入る際には、つばの大きい帽子、厚手の長袖や長ズボンを着用し、足元に注意を払うべきです。
もしハブに遭遇した場合、無理に追い払おうとせず、ゆっくりとその場を離れることが重要です。ハブのサイズにもよりますが、平坦な場所であれば1m以上の距離を取れば、ハブの攻撃を受けないと言われています。
また、万が一噛まれた場合は、速やかに医療機関に連絡し、適切な治療を受けることが必要です。応急処置としては、傷口に口を当て毒を吸い出して、噛まれた部分を心臓より低い位置に保ち、動かさないようにすることが推奨されています。口で吸い取る分には、間違えて飲み込んでしまっても有害にはなりませんが、念のため水でゆすぐなどすればよいでしょう。
奄美大島の自然を楽しむためには、ハブについての知識を持ち、適切な対策を講じることが大切です。こうした知識を持つことで、ハブの存在を理解しながらも、安全に美しい自然を満喫することができます。
なぜマングースを導入したのか?
奄美大島には外来種である「フイリマングース」が生息していました。近年は目撃情報がなく、恐らく根絶に成功したと言われています。そして今年9月にはついに「根絶宣言」が発表される見通しであることが、環境省から発表されています。
マングースは昼行性で、森や草むら、農地などさまざまな場所に適応して生息します。体長は約50センチメートルで、体毛は灰色がかった茶色です。彼らは雑食性で、小型哺乳類、鳥類、爬虫類、昆虫、果実などを食べます。この広範な食性が、在来種の動植物にとって脅威となっています。
では、そもそも外来種のマングースがなぜ奄美大島に導入されたのでしょうか?
マングースはもともとインドなどに生息する動物で、見た目に反して獰猛な肉食動物であることで知られています。そのため奄美大島には、ハブ対策として1979年に30頭が導入されました。当初はハブの天敵として期待されましたが、実際にはハブを捕食することはほとんどなく、アマミノクロウサギやケナガネズミなどの弱い動物ばかりを捕食してしまい、島の生態系に大きな影響を与えることとなりました。さらにマングースは繁殖力が強く、ピーク時には10000頭以上が生息していたとされており、在来種の生物に大きな脅威を与えました。
そこで、奄美大島ではマングースの生態系への影響を軽減するため、ワナを利用した駆除活動が20世紀末から行われてきました。駆除活動は、後で述べるように、地元の住民や環境保護団体、行政が連携して行ってきましたが、2018年を最後に捕獲されなくなったようです。それを受けて先ほど述べた「根絶宣言」が目前に迫っているということですね!
マングースの導入は、外来種の管理と生態系保護の重要性を改めて考えさせる出来事です。自然環境を守るためには、慎重な判断と計画が不可欠であり、奄美大島の経験は他地域にとっても貴重な教訓となるでしょう。
一方でマングースも「命」を持っている生き物です。人間が勝手に持ち込んだ外来種を根絶するのは、マングースからしたら「惨劇」にほかなりません。現在も日本ではシカの仲間である「キョン」が増えすぎたり、クマの被害が増えたりしていますが、対策として外敵やライバルを放すことは再び「惨劇」が起こるリスクをもらたします。野生動物の「導入」は大変難しい問題ということができます。
地元の葛藤と工夫
奄美大島の自然保護活動には、地元住民の協力が欠かせません。住民は外来種を発見した際に自治体に報告したり、駆除活動に参加することで、生態系の保護に直接貢献しています。特に2005年以降は、外来生物法に基づいて「奄美マングースバスターズ」による駆除活動が行われてきました。地元の小学校などでは「マングースバスターズ」による出張授業も行われており、子供たちに自然の大切さと保護の必要性を教えることで、次世代に向けた意識の醸成が図られています。
少し時代はさかのぼりますが、1995年2月には鹿児島地方裁判所で、「アマミノクロウサギ裁判」と呼ばれる裁判が行われました。生き物の棲む森をゴルフ場にすることを許可した鹿児島県に対して、その取り消しを求めて、アマミノクロウサギなどの動物が裁判を起こしたものです。もちろん本当にクロウサギが裁判所に行ったわけではなく、自然保護団体が代理となったわけですが、現在の日本の法律では動物が裁判を起こすことはできないので、訴えは退けられてしまいましたが、ゴルフ場建設に反対する世論が集まり、結局その森は開発されずにすみました。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は「奄美大島の大自然」の最終回として、美しさと豊かさの背後にある「外来種問題」という大きな課題を取り扱いました。奄美大島がこの半世紀でした経験は、外来種管理と生態系保護の重要性を再認識させるものであり、他の地域への貴重な教訓にもなります。奄美大島を訪れる際には、ぜひこのような背景を理解し、自然を大切にするとはどのようなことなのかを考えてみてください。私たち一人ひとりが自然保護に対する意識を高めることで、美しい自然を未来に引き継いでいきましょう。
コメント